荻田泰永  6年ぶりの北極へ

グリーンランド極北部・シオラパルクへの旅

 

 

2016年、カナダとグリーンランドのそれぞれの最北の集落をつなぐルートを、

世界で初めて単独徒歩により踏破した荻田は、

ゴールとなったシオラパルク村で一つの昔話を聞く。

 

それは村から北上した場所にかつてあった、古い集落での物語。

身寄りのない婆さんがシロクマの子供を自分の養子とするが、

誤って殺されてしまった息子の帰りを案じて待つうちに、

岩になってしまったという伝説だった。

 

 


 

 

その岩は今でもそこにある。

しかし、現在では社会構造の変化でエスキモーたちも狩猟に出なくなり、

また温暖化で海氷が不安定なことから、

その場所に行く者はもういないと言う。

 

数百年、数千年にわたって口伝えに繋がってきた物語が、

社会構造や環境変化によって途絶えている現実の、

最前線に私たちは立っている。

 

 


 

 

2024年、グリーンランドにまつわる探検記を調べている時に、

100年前に北極圏を広く探検し、

記録を収集したデンマーク人探検家ラスムッセンの記録に目が留まった。

 

それはラスムッセンがグリーンランド北部で聞いたという

「岩になった婆さんと、シロクマの養子」の話だった。

荻田が聞いた話を、

その100年前にも確かに記録していた探検家がいた。

 

 


 

 

2025年、荻田は再びグリーンランドに向かう。

世界中で先人たちの叡智が失われている現代、

風前の灯のように物語が消え去ろうとしている最前線からのメッセージは、

私たちの足元を見つめ直す力強さを宿す。

 

「新しいもの」は無から生まれるのではなく、

先人たちの記憶や試行錯誤、それらの想いに影響を受けた、

その全ての表出として現代に生きる私たちの姿勢から生まれる。

 

歴史を知り、消え去ろうとするものに目を向けるのは、

革新を目指す者が真に取るべき姿勢だと、

閉塞した日本社会にこそ伝えたい。

 

それが冒険家が行うべき、

一つの大きな役割だと考える。

 

 

 

日 程 : 2025年4月上旬から5月上旬 

     *歩行は約3週間(20日ほど)を予定

目的地 : グリーンランド極北部・シオラパルク〜アノーイトー岬

手 法 : ソリを引いての単独徒歩

踏破距離:約400km

 

*今回の冒険は、アノーイトー岬にある「岩」にまつわる伝承を、絵本作品としてまとめることが一つの目的となっている。